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ヤマセミ(Megaceryle lugubris)の分類 カワセミ科(Alcedinidae)
ヤマセミ(Megaceryle lugubris)の概要 ヤマセミ属(Megaceryle)

ヤマセミ(Megaceryle lugubris)

低危険種 (LC or LR/lc)

【IUCN】現時点での絶滅危険度の低い種

【 学名 】
Megaceryle lugubris (Temminck, 1834)

基本情報

大きさ・重さ

・全長:41~43 cm
・最大翼長:179~196 mm
・尾長:106~124.5 mm
・全嘴峰長:63~70 mm
・ふ蹠長:12~15 mm
・体重:240~305 g
・卵:長径 38~41.5 mm × 短径 31~32.4 mm 平均長径 37.9 mm × 短径 31.4 mm 重量 16.5~20 g

参考文献

  • 清棲幸保 1955 ヤマセミ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 366-367.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

分布

旧北区、東洋区。カシミール、アッサム、ビルマ、インドシナ半島、中国南部、朝鮮半島、日本に分布する。

日本では本州、四国、九州に生息する。

北海道や千島列島南部に生息するものは亜種エゾヤマセミ (C. l. pallida) とされる。

また、北東アフガニスタンの東部からカシミール、ネ パール、北東インドからインドシナ半島、中国の南部から北東部、ミャンマー南部、タイ北西部、ベトナム一帯に生息するものは C. l. guttulata とされる (del. Hoyo et al. 1992)。

参考文献

  • 中村雅彦 1995 ヤマセミ, 中村登流、中村雅彦(著) 原色日本野鳥生態図鑑:陸鳥編. 保育社. 259.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

別名・方言名

体の模様から、古名を鹿子鳥とか、鹿子翡翠という。

参考文献

  • 吉井正 2005 ヤマセミ, 吉井正(監修) 三省堂編修所 (編) 三省堂世界鳥名事典. 三省堂. 522.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

分類学的位置付け

ブッポウソウ目 カワセミ科

参考文献

  • 吉井正 2005 ヤマセミ, 吉井正(監修) 三省堂編修所 (編) 三省堂世界鳥名事典. 三省堂. 522.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

形態

成鳥の形質

【雄】
額、頭上、眼先、眼の上、耳羽は黒色で、白斑の斑が散在する。

頭上、後頭の羽は長くて冠羽をなし、羽冠の中央の各羽は白色で先端だけが黒色であるが、ほかのものは黒色で、白色の円形の小斑がある。

腮、喉、頬は白色で、下嘴の基部から喉の両側に沿って黒色の斑点からなる頬線が走り、全体に赤錆色を帯びている。

後頭は黒色で、白色の斑が散在するが、一部は純白色である。頸側は白色である。

背、肩羽、腰、上尾筒は白色で、灰黒色の横縞が多数ある。

胸、腹は白色で、胸にはときには疎な、ときには密な黒色の縦斑からなる幅の広い横帯があり、全体に赤錆色を帯びている。

脇は白色で灰黒色の横縞があり、下尾筒は白色であるが、先端の部分の各羽には黒色の斑がある。

下雨覆、腋羽は白色で、黒色の斑がある。

翼は黒色で、初列風切、次列風切、三列風切、大、中、小翼羽は内外弁に白色の斑が横縞をなして多数ある。

尾は黒色で、内外弁には白色の斑が横縞をなして多数ある。嘴色は黒色の角色で、基部は緑色を帯び、先端は角色である。

虹彩は暗褐色、脚色オリーブ緑色。

【雌】
胸に赤錆色がなく、下雨覆、腋羽は赤錆色である。

参考文献

  • 清棲幸保 1955 ヤマセミ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 366-367.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

幼鳥の形質

背面・翼・尾は雄雌とも成鳥と大きな差はなく、背に白色の横縞が多少斑点状として現れている程度であるが、下面は雄雌ともに雌成鳥に似ており、下雨覆・腋羽・脇は横斑がなく肉桂赤色となっている。

しかし、胸帯をなす部分の羽毛が雄雌とも灰黒色の縦斑を有する点は、雌成鳥とも異なる。

また、この部分の羽毛は雄においては先が少し肉桂色を帯びており、顎線の下部は雄雌とも肉桂色を帯びている。

参考文献

  • 山階芳麿 1980 ヤマセミ, 山階芳麿(著) 日本の鳥類と其生態Ⅱ. 出版科学総合研究所. 477-480.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

卵の形質

卵は純白色で斑紋を欠く。

参考文献

  • 清棲幸保 1955 ヤマセミ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 366-367.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

生態

生息環境

主には山地の渓流や湖沼に生息するが、河川中流域でも繁殖が見られる。

本種の生息には、好適な採食場所となる瀬と淵で構成された河川、採食時に止まり場となる河畔林、営巣可能な露出した土の崖が重要な条件となる。

カワセミと同様、近年は個体数が減少しているが、その一方で平野部での繁殖、中・下流域での採餌が見られるようになり、生息域の拡大が注目される。

参考文献

  • 中村雅彦 1995 ヤマセミ, 中村登流、中村雅彦(著) 原色日本野鳥生態図鑑:陸鳥編. 保育社. 259.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

食性

採食では、岸に生えた高木の枝や流れの中の岩、ときには水面から 10 mの高さの橋の橋脚などを止まり場として魚を探し、水中に飛び込んで捕える。

またホバリング (停空飛翔) から水中に飛び込んで採食を行うこともある。

長野県を流れる千曲川の中流域における繁殖期の調査では、採食方法として 止まり場を利用する割合は90.0% (N=209) であり、ホバリングを利用するよりも高かった(Kasahara & Katoh 2008)。

採食行動による採食成功率の比較では、止まり場を利用した場合の方がホバリングを 利用した場合よりも魚を捕らえる率が高かった (止まり場利用: 70.7%,N=188,ホバリング 利 用: 50.0%, N=18)。

同所的に繁殖が見られるカワセミと採食時に飛び込む高さ、採食場所の深さについて比較したところ、採食方法によらず、ヤマセミはカワセミよりもより高い場所から水中に飛び込み、より水深の大きい場所で採食する傾向が見られた(Kasahara & Katoh 2008)。

また、採食場所の比較を行ったところ、ヤマセミの採食が見られた場所は流れが比較的速い場所であった一方で、カワセミの採食が見られた場所は流れが比較的穏やかな傾向が見られた。

2種の巣内育雛の後期に巣に運ばれる食物をビデオ撮影によって調査したところ、ヤマセミではウグイが最も利用され、続いてオイカワが利用された。

また、アユ、コイやフナの仲間、ドジョウ、アカザやナマズなども巣穴に搬入された。

カワセミではオイカワが最も利用され、続いてウグイ、そしてドジョウも高い割合で利用された。

利用された食物の推定体長の平均はヤマセミで 12.8±2.5 cm (N=304)、カワセミで、7.5 ± 1.5 cm (N=620)であり、体サイズの大きいヤマセミ (カワセミの全 長は約 16 cm,del. Hoyo et al. 2001,体 重は 18~36 g, 清棲 1978) のほうが利用する食物は大きかった (Kasahara & Katoh 2008)。

参考文献

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

ライフサイクル

繁殖期は3~8月。一夫一妻制。3月初旬から雌雄の連れ立ち行動や追いかけ合いが観察され、3月中旬には雄が雌に魚をプレゼントる求愛給餌行動や交尾が見られる。

求愛給餌は交尾前というより交尾後に回数が多く、産卵終了後には観察されない(神保, 1992)。

ひとつがいあたりの行動圏は、川に沿って 3~7 km (石部 1997)。土質の崖に横穴を掘って営巣する。

巣穴の入り口は上に尖る5角形をしており、大きさは縦 11~18 cm、横 10~18 cm程度 (N=5, 西村 1979)。

入り口から最奥部までは 0.8~1.6 m(石部 1997)。造巣には14~20日を必要とする (中村・中村 1995)。

河川に面した崖だけではなく、河川から 1 km以上離れた崖も利用し、高さが 2 mもしくは 3 m以上の急傾斜の崖を好む傾向がある (西村 1979, 石部 1997)。

抱卵期間は約24日、育雛期間は約35日。抱卵、抱雛ともに雌雄で行う (石部 1997)。

参考文献

  • 中村雅彦 1995 ヤマセミ, 中村登流、中村雅彦(著) 原色日本野鳥生態図鑑:陸鳥編. 保育社. 259.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

鳴き声

ケレッ、ケレッ、と鋭い声で鳴く。飛びながらケレケレケレ、と鳴くこともある。

繁殖期に巣穴を掘る際には、おもにオスがケレレレレ、と大きな声で頻繁に鳴く。

参考文献

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

特徴的な行動

1年を通して番ごとになわばりをもって分散する。冬はなわばりの中で、時間や場所をちがえて雌雄別々に行動する(石部, 1987)。

なわばりの中には複数の止まり場があり、採食、休息など、行動ごとに止まり場を使い分ける(黒田, 1991)。

参考文献

  • 中村雅彦 1995 ヤマセミ, 中村登流、中村雅彦(著) 原色日本野鳥生態図鑑:陸鳥編. 保育社. 259.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

その他生態

渓流や湖沼附近にだけ生息し、森林中には生息しない。

渓流畔や湖沼畔の樹木にとまってじっと流れの中や水中の魚類を狙い、魚類を発見すると突然水中に飛び込んでこれを捉える。

通常そのとまる樹木は一定し、しかも活動範囲や時間も略々定まっているらしく、著者は伊豆半島の狩野川で毎朝ほとんど同時刻に下流の方に飛翔するのを観察した。

水面近くの低所を飛翔することあるが多くは高空を川沿いに飛ぶ。警戒心が強くその上目がよく利くのでなかなか人を近寄せない。

翼を緩慢に羽搏いて飛翔しつつ啼くのが常である。

四季にわたって領域を守り、1つ渓流1つ湖沼に1番位しか生息しない。

同種のほかの鳥が領域に飛来するとこれを駆逐するらしく、毎年増殖する幼鳥も成長し終わるとほかの渓流や湖沼を求めて移住する。

領域は渓流沿いにかなり長い距離にわたるが、その幅は狭くほとんどその流域の沿岸だけである様である。

参考文献

  • 清棲幸保 1955 ヤマセミ, 清棲幸保(著) 日本鳥類大図鑑Ⅱ. 講談社. 366-367.

最終更新日:2020-06-03 キノボリトカゲ

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