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カモノハシ(Ornithorhynchus anatinus)の分類 Ornithorhynchidae
カモノハシ(Ornithorhynchus anatinus)の概要 Ornithorhynchus

カモノハシ(Ornithorhynchus anatinus)

近危急種 (NT or LR/nt)

【IUCN】現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種

【 学名 】
Ornithorhynchus anatinus (Shaw, 1799)

基本情報

大きさ・重さ

サイズ:全長と体重は地方により異なり、体重は季節によって変化する。

雄:全長 45~60 cm、くちばしは平均 5.8 cm、尾長 10.5~15.2 cm、体重 1~2.4 kg
雌:全長 39~55 cm、くちばしは平均 5.2 cm、尾長 8.5~13 cm、体重 0.7~1.6 kg

参考文献

  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 カモノハシ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 55.
  • M.L.オージー 1986 単孔類, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 93-95.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

分布

クイーンズランド州のクックタウンからタスマニアまでのオーストラリア東部、サウス・オーストラリア州のカンガルー島へ移入されている。

参考文献

  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 カモノハシ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 55.
  • M.L.オージー 1986 単孔類, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 93-95.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

分類学的位置付け

カモノハシ科(Ornithorhynchidae)

参考文献

  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 カモノハシ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 55.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

人間との関係

1798年ごろ、オーストラリアの植民地からカモノハシの第1号(乾燥した毛皮標本)がイギリスに到着して以来、この動物は論争の渦中にあった。当初この標本は、剥製師がカモのくちばしと哺乳類の胴体を縫い合わせてつくったでっちあげだろうと思われたほどである。本物と分かっても、哺乳類とは認められなかった。それは毛皮で覆われているが、鳥類や爬虫類に似た生殖道をもつことが分かったからである。この生殖器系の構造からみても、カモノハシは当時知られていた全ての哺乳類のように幼体を直接出産するのではなく、卵を産むことが予想されたのである。しかし現在では正しいことが知られているこの予想は、哺乳類という名のもとになった根本的な特徴である乳腺をカモノハシはもつことが判明するに及んで、疑わしいものとされてしまった。
カモノハシは爬虫類に似たいくつかの骨格上の特徴(とくに肩帯)をもつこと、卵を産むことから「原始的な哺乳類」あるいは「毛皮をもつ爬虫類」として記載されてきた。1973年になっても、カモノハシは多くの哺乳類と同じ方法では体温を調節できないこと、及び水中で泳いでいるうちに体温が下がり、体を温めるために何度も巣穴へ戻らなければならないと考えられていた。しかしこれは、四季を通して全ての食物を水中で得なければならない動物にしては奇妙である。最近の研究によって、カモノハシはこの点でも紛れもない哺乳類であることが明らかにされている。

参考文献

  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96₋97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

形態

成獣の形質

雌は雄よりも小さく、独立したばかりの幼体は成体の大きさの約85%である。体は流線形で、足とくちばし以外は全身に密な防水性の毛が生えている。体毛は背側は暗褐色、下面は正中部がさび色がかった褐色、ほかの部分は銀色から淡褐色である。これは、もっとも明るい毛色をもつ幼体で顕著である。
毛は短く、密である(長さ約 1 cm)。眼と耳孔をつなぐ溝の下に淡色斑がある。
くちばしはカモのくちばしに似ており、先端から少し後方の上面に鼻孔が開いている。しかし、くちばしはやわらかく、しなやかである。くちばしには神経が多く分布し、食物の所在を探ったり、水中で進行方向を知るのに使われる。この理由は、潜水時には眼も口も閉じられるからである。くちばしの後ろには、口の中に開口する2つのほお袋がある。ここには、幼体が巣穴を出るとすぐに消失する歯に代わって機能する角質のうねがある。ほお袋は、食物を咀嚼し選別する間、蓄えるのに使われる。
あしは極めて短く、体に密着している。後ろ足には部分的にみずかきがあるだけで、水中では舵としてしか使われない。他方、前足には大きなみずかきがあり、主要な推進器官である。前足のみずかきは、歩いたり巣穴を掘るときには折りたたまれ、大きな幅広の爪を露出する。雄の後ろ足のくるぶしには、中空で、大腿部にある毒線へ通ずる導管とつながった角質のけづめがある。尾は幅広く偏平で、脂肪貯蔵場所として使われる。

参考文献

  • M.L.オージー 1986 単孔類, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 93₋95.
  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96₋97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

生態

生息環境

いつも水があり、巣穴を掘るのに適した土手があるほとんどの小川、河川、一部の湖沼に生息している。

参考文献

  • M.L.オージー 1986 単孔類, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 93-95.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

食性

カモノハシの食物はほとんど完全に底生の無脊椎動物、とくに昆虫の幼虫である。2種の移入されたマスが同じ種類の食物を食べるので、カモノハシの競争相手となる。しかしマスとカモノハシは多くの川で一緒に見られることから、それほどは競合しないと考えてよい。ある水系における最近の研究により、マスは遊泳する無脊椎動物を多く食べ、カモノハシはほとんどもっぱら川の底にすむ無脊椎動物を食べることが分かっている。水鳥もカモノハシと食物が重なる可能性があるが、水鳥の多くはカモノハシは食べないと思われる植物質を食べている。
獲物を探すためのくちばしは、昆虫の幼虫やマスの卵、淡水性のエビ、ハリガネムシといった小さな水中の獲物が発する電気信号を感じ取る。

参考文献

  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 カモノハシ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 55.
  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96₋97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

活動時間帯

カモノハシは夜行性だが、冬の日中に活動することもある。

参考文献

  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 カモノハシ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 55.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

生殖行動

交尾はオーストラリア北部でのほうが南部でよりも早く始まると考えられているが、ときには春(8~10月)に行われる。交尾は明らかに水中で行われ、最初雌が雄に近づき、そのあと追跡が演じられ、雄が雌の尾を掴む。

参考文献

  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96₋97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

出産

妊娠期間は1ヵ月、卵は2個(ときに1個あるいは3個)である。ふつう2個の卵を産むが、毎年どれだけの幼体がうまく離乳するかは不明である。全部の雌が毎年繁殖するわけではなく、個体群へ新しく加わった個体は、おそらく少なくとも2歳になるまでは繁殖しない。この低い繁殖率にも関わらず、今世紀初めから行われてきた保護と捕獲禁止の措置によって、いくつかの地方で、カモノハシは絶滅の淵から蘇った。このことは、少数の幼体しか産まないが、面倒はよくみるという繁殖のやり方が、この長命の種では有効なことを示している。

参考文献

  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 カモノハシ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 55.
  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96₋97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

子育て

孵化した幼体は乳で養われる。幼体は3~4ヵ月間、母親の乳腺(育児嚢はない)開口部の周囲の毛からしたたる乳を飲む。この間、幼体は特別な育児用の巣穴に閉じこもったままである。この巣穴は、カモノハシがふだん生活している巣穴よりも長くて複雑である。それはときに長さ 30 mに達し、1個ないし複数の巣室を備えている。幼体はこの巣穴から晩夏(ニュー・サウス・ウェールズ州では1月末~3月初め)に出てくる。巣穴を出たあともしばらくの間、母親の乳を飲み続ける。

参考文献

  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96₋97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

その他生態

カモノハシが生息しているいくつかの地域の冬季の水温は氷点に近く、気温は氷点を下回る。そのような冷たい条件にさらされると、カモノハシは正常な32℃前後の体温を維持するために、代謝率を上げて必要な熱を生産することができる。この体温は多くの哺乳類よりは低いが、低温にさらされた爬虫類の体温よりは間違いなくはるかに高い。良質の毛皮と脂肪組織という絶縁体が、体温を保持するのに役立つ。巣穴も冬と夏の極端な外界温度をやわらげる微気候を提供してくれる。

参考文献

  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96-97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

関連情報

その他

カモノハシの繁栄は、世界でもっとも乾燥した大陸において、永続してきた河川や湖沼という生態的地位を占めたことによる。そのため、カモノハシは非常に特殊化した哺乳類であり、生息環境の変化に極めて影響を受けやすい。オーストラリアで人間が引き起こした変化は、今までのところカモノハシの個々の個体群に影響を与えた程度にとどまっている。しかし、このユニークな種を残そうと思うなら、環境に対する気遣いと思いやりをもち続けなければならない。

参考文献

  • T.R.グラント 1986 カモノハシ, C.R.ディックマン(著) 今泉吉典(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科6 有袋類ほか. 平凡社. 96₋97.

最終更新日:2020-05-13 ハリリセンボン

種・分類一覧