マッコウクジラ(Physeter macrocephalus)の解説トップに戻る
マッコウクジラ(Physeter macrocephalus)の分類 Physeteridae
マッコウクジラ(Physeter macrocephalus)の概要 Physeter

マッコウクジラ(Physeter macrocephalus)

危急 (VU)

【IUCN】絶滅の危険が増大している種

【 学名 】
Physeter macrocephalus Linnaeus, 1758

基本情報

大きさ・重さ

体長:雄 20.7 m(最近の記録では 18.5 m)、雌 12 mまで。
体重:雄 45~70 t、雌 15~20 t 

参考文献

  • C.ロックヤー 1986 マッコウクジラ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 52₋57.
  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 マッコウクジラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 202₋203.
  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

分布

南緯40度~北緯40度の間全域に分布する。
世界中に分布し、大陸棚より沖の深い海域に生息する。マッコウクジラの雄は極海まで。

参考文献

  • C.ロックヤー 1986 マッコウクジラ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 52₋57.
  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 マッコウクジラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 202₋203.
  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

分類学的位置付け

マッコウクジラ科

参考文献

  • ジュリエット・クラットン=ブロック 2005 マッコウクジラ, ジュリエット・クラットン=ブロック(著) 渡辺健太郎(翻) 世界哺乳類図鑑. 新樹社. 202₋203.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

形態

成獣の形質

頭部は巨大な丸太のように大きく、角ばり、体長の30%もの長さがある。この内部には脳油ケースとこれに関連する器官があり、頭骨背面のくぼみに収まっている。
下あごは上あごに比べて細く棒状で、左右に20~28本の歯があり、雌雄とも8~9歳で萌出する。この下あごが収まる上あご下面のくぼみには、おのおのの歯が収まるソケットと呼ばれるさらに小さいくぼみがある。上あごの歯は退化しており、歯茎中に埋没したままほとんどが萌出しない。左右の鼻道は開孔直前に連結しているため、鼻孔は1つである。また、現生鯨類としては唯一鼻孔が頭頂部になく、頭部前端の左上隅に開孔している。
胸びれは楕円形かそれに近く、長さは体長の10%程度と比較的小さい。尾びれは底辺の長い二等辺三角形で、左右の幅は体長の25%ほどにも達する。首より後ろの体表には不規則なさざ波状凹凸があり、背面ほどこれがはっきりしている。
腹部にはへそを中心として刷毛でなでたような白斑がある。頭部には、イカの吸盤痕、ダルマザメの噛み痕、さらに大型の雄では雄同士の繁殖時の闘争によってつけられたひっかき傷が散在する。
体色は黒灰色か茶色で、腹部は色が薄く、幅の狭い下あごにはクリーム色の模様がある。
雌ではおよそ25歳で体長の増加が停止するが、雄では40歳くらいまで成長が続く。

参考文献

  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

生態

食性

食物の80%はイカであり、残りがタコ、魚、甲殻類(主にエビとカニ)である。海域によってはメヌケなどの底魚を食べる。1,200 m以上の暗黒の深海で、最高1時間は潜水して食物をとる。

深海での採餌では、クリック音を利用したエコーロケーション(音響探索)を多用して、餌生物の探知に努めるらしい。完全に盲目なマッコウクジラが完全に良好な健康状態で、しかも胃に食べ物が入ったまま捕獲されたことがある事実より、疑いはない。また、食物のとり方はわかっていないが、強い音を餌生物に当ててその動きを麻痺させるという一説もある。

血中のヘモグロビンや筋細胞中のミオグロビン量が多く、より多くの酸素を蓄えられる。また、頭部の脳油が31℃で凝固が始まる性質を利用して、巧妙に潜水・浮上をしているという考えもある。つまり、潜水時には脳油器官の中を貫いている左側の鼻道に海水を導入することによって、脳油を冷やして凝固させ、頭部の比重を大きくする。一方、深海から浮上する際には、脳油を囲む血管網に血液を流して、脳油を液化させ比重を小さくするというものである。

参考文献

  • C.ロックヤー 1986 マッコウクジラ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 52₋57.
  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

天敵

天敵は主にシャチであるが、子クジラはサメにも狙われる。外敵に対して、頭を中心に数頭が円陣を組み、尾びれで防ぐ行動も観察されているが、常に捕食を免れるというわけではない。外部寄生虫としては、下顎歯周辺にミミエボシ類(エボシガイ科の甲殻類)が寄生することがある。胃には線虫類が多数見られ、腸管には条虫類が寄生している。生態的競合を避けるために、競争者のいない深海に索餌場を求めたと考えられ、ほかの鯨種との競合はない。

参考文献

  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

生殖行動

交尾期が近づくと成熟雄は繁殖育子群のいる暖かい海に行き、発情雌を探し求めて群れを渡り歩く。ここで似た体力の雄同士が出会えば闘争があると思われ、老齢の雄ほど頭部に平行についた闘争傷が多い。かつて信じられていたハレムのイメージとは異なり、雄が1つの繁殖育子群に滞在する時間は長くてもせいぜい数日で、短い場合は数時間に過ぎないことが分かってきた。また効率的な交尾を狙って、雌のほうでも雄が到着すると揃って発情するという説もある。交尾は水面下で腹側を接して行う。

参考文献

  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

出産

およそ16ヵ月の妊娠期間を経て、雌は体長 4 mほどの新生子を1頭産む。妊娠と妊娠の間隔は、雌の年齢や栄養状態によって異なるが、およそ5年である。2年程度で離乳するが、ときには10歳前後まで乳を飲んでいる例が知られている。高齢の母親ほど授乳期間が長い傾向がある。なお死産したり、子どもを亡くした母親が、ほかの子どもに乳を飲ませることがあるのではないかと推測される。

参考文献

  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

特徴的な行動

マッコウクジラの相互交渉には、材木を突き上げたり、水面に飛び跳ねたり、尾びれで水面を叩いたりする遊びから、あごを折るほどのけがをする争いまである。

またクリックと呼ばれる、カッカッという水中音を出す。その周波数は 5~32 kHzで、1つのクリックは9個以下の短いパルスからなり、群れが出会ったときに出される。それぞれの個体はコーダと呼ばれる固有のクリックの型を持っていて、これを数秒から数分の間隔で2~60回繰り返す。マッコウクジラはほかに、低いうなり声とさびたちょうつがいのきしむような音も出す。

参考文献

  • C.ロックヤー 1986 マッコウクジラ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 52₋57.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

その他生態

マッコウクジラは季節、年齢、性別、場所によって異なるタイプの群れを作る。極地には大きな雄(成熟雄)だけが、ふつう単独で生活している。暖海には5タイプの群れが知られている。それらは、成熟雄の群れ、若い成熟雄の群れ、子どもの群れ、育児群(成熟雌、幼児、子どもの雄・雌)、ハーレム群(繁殖期に一時的に成熟雄が育児群に入ったもの)である。群れの大きさは1頭から100頭以上まで幅広い。
平均は沿岸海域で20頭、沖合で3~7頭である。ある種の群れ、とくに育児群は構成員がずっと変わらない傾向がみられる。3頭の標識をつけられた雌が、10年後も同じ群れにいた例が知られている。
ハーレムは1頭の成熟雄と10~40頭、ふつうは14頭前後の雌からなる。雄がハーレムに入るには、ほかの雄と闘って勝たなければならないらしい。そのとき雄は頭で突いたり歯を使ったりする。雌は老いた雄を追い出すのに加勢するらしい。

参考文献

  • C.ロックヤー 1986 マッコウクジラ類, R.ギャンベル(著) 大隅清治(監修) D.W.マクドナルド(編) 動物大百科2:海生哺乳類. 平凡社. 52₋57.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

関連情報

その他

第2次世界大戦後、国際捕鯨取締条約が締結され、1948年にはこの条約の下に国際捕鯨委員会(IWC)が設立され、マッコウクジラの捕獲も国際的管理下におかれるようになった。捕鯨は1970年代初頭まで隆盛を続けたが、70年代中ごろから徐々に国際的な鯨類保護の気運が高まり、IWCは1982年に商業捕鯨停止を決議した。その受諾をめぐって捕鯨国と非捕鯨国の応酬が続いたが、88年3月を最後にすべての商業捕鯨が停止し、マッコウクジラの捕獲もここに停止した。
西部北太平洋の1983年のマッコウクジラ総数は目視により少なくとも8万頭と推定された。またIWCでは、当時の成熟雄は対1910年比で48%以下に、成熟雌も76%以下に低下していたと推定した。近年、房総や三陸沖では本種の発見が増加している。

参考文献

  • 加藤秀弘 1996 マッコウクジラ類, 森恭一(著) 日高敏隆(監修) 伊沢紘生、粕谷俊雄、川道武男(編) 日本動物大百科2:哺乳類Ⅱ. 平凡社. 50₋53.

最終更新日:2020-05-14 ハリリセンボン

種・分類一覧