- 解説一覧
- ハス(Nelumbo nucifera)について

基本情報
- 分布
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イラン、インド、中国、オーストラリア、熱帯アジアに広く分布し、栽培されている。
参考文献
- 伊澤一男 1998 ハス, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 173₋174.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
- 和名の解説
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万葉のころには「ハチス」と呼んでいた。
これは花が終わって果実になるころ、大きな花托の平らの面に巣に似た穴があることから、蜂巣という意味でこの名ができた。のちに、ハチスのチが短縮されてハスになったのである。
参考文献
- 伊澤一男 1998 ハス, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 173₋174.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
- 亜種・変種・品種
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ハスの園芸品種には、アジア原産のハスから生まれた品種が圧倒的に多いが、南・北アメリカ原産のキバナバスからも若干の品種がつくられ、また両種の交雑品種も作出されている。
花ハスとよばれる観賞用の品種群と食用蓮根の品種群との間には、植物分類学上の違いは見いだせない。
食用蓮根の品種中にも、花が美しく花ハスと同じように観賞に用いられているものがある。
蓮根用のハスが中国から渡来した可能性が強いのに対し、日本産の野生のものは地バスと呼ばれる。これは地下茎があまり大きくならないが、開花期が早いため盆に間に合わせるための切り花栽培が行われている。
ハスの品種は、観賞用として18世紀には5~6品種であったものが、19世紀には90品種が栽培されるようになった。
現在では食用種、観賞用種を合わせると150品種に達するといわれているが、失われた品種や同名異品種、異名同品種もあり、実際には現存するのは100品種前後である。
花ハスの品種は、花色と花形で分類されている。
花色には純白の白色系(太白蓮、西円寺青蓮、白茶碗蓮など)、白地で花弁の先に桃色や紅色が入る爪紅色系(酔妃蓮、金輪蓮など)、紫色を含んだ紅色系(大賀蓮、八重茶碗蓮など)、白い花弁に縁、褐色、茶褐色、紫紅色などの筋や紋、長い斑点の入る斑色系(一天四海、不忍池斑蓮など)、ギバナバスの品種である黄色系(オハイオ蓮、バージニア蓮など)、ギバナバスとハスとの雑種である黄紅色系(黄紅王子蓮、ミセス・スローカムなど)がある。
花形には、花径の大中小、また八重、二重、一重があるが、八重咲き種の花形には他の園芸植物、たとえばシャクヤク、ボタン、ツバキなどに比べると、さほど多くの変異は見られない。
また一重咲きの花には花弁数に変異があり、八重咲きと紛らわしい二重咲きもある。花弁数の増加は雄しべが弁化したものが多く、八重化が進むとがく片や雌しべまで弁化したものもあり、こうなると不稔となり、もっぱら地下茎で繁殖させることになる。
極端に八重化の進んだものに多頭蓮がある。最初の花は1花に見えるが、花床の分岐によって、外側の花弁が散るとその中からいくつかの花が現れる。
妙連は室町時代に近江(滋賀県)で記録されている古い品種で、滋賀県守山市の大日池と金沢市の持つ妙院に伝えられている。1本の花柄に2花をつける双頭蓮もまた、古くから知られている。
【ハスの園芸品種】
・太白蓮
白色系の代表的品種で大型一重。
・西湖蓮
中型の八重品種。コンパクトな花形だが、数百枚の花弁をもつ。
・酔妃蓮
爪紅色系の大型一重品種。孫文から贈られた種子を大賀一郎博士が開花させたもの。
・誠蓮
紅色系の中型八重品種。花弁は80~90枚ある。
・ミセス・スローカム
黄紅色系の中型八重品種。黄花では唯一の八重咲き品種。
・バージニア蓮
南・北アメリカ産のキバナバスからつくられた黄色系の中型一重品種。1961年に立花吉茂が導入したもの。
参考文献
- 伊藤克己 1997 ハス, 菅原敬(著) 植物の世界9,種子植物 双子葉類9 単子葉類1. 朝日新聞社. 18₋21.
- 立花吉茂 1997 ハス, 菅原敬(著) 植物の世界9,種子植物 双子葉類9 単子葉類1. 朝日新聞社. 21.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
- 分類学的位置付け
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スイレン科
参考文献
- 伊澤一男 1998 ハス, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 173₋174.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
- 人間との関係
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古代ハスとして有名な大賀ハスは、1951年に千葉県検見川の泥炭層から出土した種子を、大賀博士が発芽させたものである。
原産地インドでは、最も美しい神聖な花とされ、5000年前に作られたというハスの女神像が発見されている。またインドの国花にもなっている。
中国でも『詩経』をはじめ、多くの書物に古くから現れ、泥に生じ泥に染まらぬハスをたたえている。
日本においても『古事記』や『万葉集』に既に現れている。
ハスとサトイモを女性と重ねて詠み、「私はあなたをハスだと思って結婚したのに、今日よそで見た女性は素晴らしく、あれこそハスで我が家のハスだと思っていたあなたはいもであった、残念だ」といっていることをみても、ハスは当初から若く美しい元気な女性のイメージであった。
ハスは生け花の花材としても使われている。しかし水揚げが悪いため、切り口に水揚げ用のポンプで注入したり、水中で切り、そのまま池中の泥にさして切った泥をつめた状態にするなどの処理が必要である。
また冬枯れの花托は「蓮台」として用いる。観賞用ばかりでなく、れんこんとして地下茎は食用としての需要も多い。
北海道の第3紀層から葉の化石が、また京都近くの洪積層から果実の化石が出土している。しかし、現在の日本にハスの野生地があるという報告はない。
古い時代に中国に入り、わが国に渡来したものらしい。
わが国ではハスというと蓮根が主になって、これを食用にするが、熱帯アジアや中国では、蓮根を料理に使用するほか、果実や花托も食用にしている。
蓮根以外にもハスの種子はデンプン質に富み、中国ではよく菓子に利用される。またもち米をハスの葉に包んで蒸して香りをつけた中華料理もよく知られる。
薬用植物としての利用も古来から知られ、中国では葉、茎、花、種子などあらゆる部分が使われ、止血や強壮に効果があるとされる。
【成分】
蓮根中にはアミノ酸のアスパラギン、チロシンなどを含み、果実にはアルカロイドのネルンビン、ロツジン、アノナイン、リインジニン、プロヌチフェリンが含まれている。
【薬効と用い方】
滋養、強壮、下痢に用いられる。よく乾燥した種子(蓮子、蓮肉)を15~20粒ぐらい、フライパンでいって、3回に分けて食べるとよい。
参考文献
- 伊澤一男 1998 ハス, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 173₋174.
- 伊藤克己 1997 ハス, 菅原敬(著) 植物の世界9,種子植物 双子葉類9 単子葉類1. 朝日新聞社. 18₋21.
- 立花吉茂 1997 ハス, 菅原敬(著) 植物の世界9,種子植物 双子葉類9 単子葉類1. 朝日新聞社. 21.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
形態
- 葉の形質
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葉は地下茎から出て、1 m以上になる長い葉柄をもつ。中心に葉柄がつく楯状葉で、葉身は直径 30~50 cmの円形となる。
水面に浮く浮葉と水上に抜き出る水上葉とがある。
参考文献
- 伊藤克己 1997 ハス, 菅原敬(著) 植物の世界9,種子植物 双子葉類9 単子葉類1. 朝日新聞社. 18₋21.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
- 花の形質
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水面に抜き出た花柄の先に、大形の花を咲かせる。花は直径約 15 cm、がく、花弁はピンク色で、雄しべや雌しべは黄色である。
花は朝開き夕方閉じる。これを3日間繰り返し、4日目に散る。
参考文献
- 伊藤克己 1997 ハス, 菅原敬(著) 植物の世界9,種子植物 双子葉類9 単子葉類1. 朝日新聞社. 18₋21.
- 山田卓三 1992 ハス, 山田卓三(著) 山田卓三(監修) 野草大百科. 北隆館. 339.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
- 果実の形質
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花のあと、ハチの巣のような形の花床に実ができ、実は食べられる。
参考文献
- 山田卓三 1992 ハス, 山田卓三(著) 山田卓三(監修) 野草大百科. 北隆館. 339.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン
- 種子の形質
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種子は黒色の楕円体で、硬い果皮で覆われる。種子の寿命が長いことで知られる。
参考文献
- 伊澤一男 1998 ハス, 伊澤一男(著) 薬草カラー大事典:日本の薬用植物すべて. 主婦の友社. 173₋174.
- 山田卓三 1992 ハス, 山田卓三(著) 山田卓三(監修) 野草大百科. 北隆館. 339.
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生態
- その他生態
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地下茎には大小の穴がある。これは葉柄を通って葉脈にまで通じており、光合成、および呼吸作用のガス交換の通気孔の役割を果たしている。
参考文献
- 山田卓三 1992 ハス, 山田卓三(著) 山田卓三(監修) 野草大百科. 北隆館. 339.
最終更新日:2020-05-26 ハリリセンボン