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シャープゲンゴロウモドキ(Dytiscus sharpi)の分類 ゲンゴロウ科(Dytiscidae)
シャープゲンゴロウモドキ(Dytiscus sharpi)の概要 Dytiscus

シャープゲンゴロウモドキ(Dytiscus sharpi)

【 学名 】
Dytiscus sharpi Wehncke, 1875

基本情報

大きさ・重さ

成虫体長:28〜32 mm
幼虫体長:18〜25 mm (1齢), 34〜41 mm (2齢), 52〜58 mm (3齢)
卵の大きさ:約 4.1 mm
成虫体重:約 1.7 g

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最終更新日:2020-04-30

活動時期

通年 (夏には活動が不活発化する)

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最終更新日:2020-04-30

分布

千葉県および北陸地方の一部

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生息状況

環境省レッドリスト−絶滅危惧種IA類 (CR)
かつては日本各地に生息していたが、開発や農薬の使用による生息環境の悪化、採集圧、アメリカザリガニ等の外来生物の影響によって個体数が激減しており、現在では千葉県や石川県などのごく限られた地域にしか生息していない。

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保全の取り組み

絶滅の可能性が極めて高いことから、本種は2011年に国内希少野生動植物種に指定され、種の保存法に基づき捕獲や譲渡は原則禁止されている。
石川県では、1995〜2007年度にかけて「希少野生動植物保全対策事業」によって水生昆虫類保護のための侵入防止策、啓発看板、ため池排水施設修繕、ビオトープ整備が、2009年度からは「石川の種の保存事業」として、生息現状調査にもとづく順応的保全が進められており、耕起による生息場所の再生などが実施されている。
また、環境省の生物多様性保全推進支援事業として、能登地区のため池群において、アメリカザリガニなどの外来生物の防除や、休耕田を利用したビオトープの整備によるシャープゲンゴロウモドキの生息地再生などを行っている。
さらに千葉県においては、千葉シャープゲンゴロウモドキ保全研究会により、生息状況の調査の他、生息地の維持管理および再生等の保全活動が行われてきた。また同会によって生息地周辺の学校での自然観察会や授業などの環境教育が実施されている。

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亜種

・アズマゲンゴロウモドキ D. s. sharpi (Wehncke, 1875)
…千葉県に分布。メスの前翅には縦溝がないか、あってもせいぜい中央部に達する程度の長さである。

・コゲンゴロウモドキ D. s. validus (Regimbart, 1899)
…北陸地方に分布。メスの前翅には中央部を越える深い縦溝が見られる。

なお、オスに関しては両亜種に外見上の相違はほとんどない。

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分類学的位置付け

昆虫綱 コウチュウ目 オサムシ亜目 オサムシ上科 ゲンゴロウ科 ゲンゴロウ亜科 ゲンゴロウモドキ属 シャープゲンゴロウモドキ
本種は、1875年に Wehncke によって記載された (Wehncke 1875) 。記載は Thorey から受け取った 1ペアの日本産の標本に基づいており、その採集地の詳細は明らかでないものの、関東近辺で採集されたものと推測されている。その後、1884年に Sharp は、1880年に Lewisによって東京の上野で採集された標本に基づいて、本種を再記載している (Sharp 1884) 。一方、Régimbart は、1889年に Leech によって採集された滋賀県長浜産の標本に基づいて、D. validus を新種記載した (Régimbart 1889) 。両種には、メスの上翅の縦溝の長さの違い以外に、形態学的な識別点はほとんど見いだせず、現在、両種は同一種と見なされている。前者を関東型 (アズマゲンゴロウモドキ D. sharpi sharpi) 、 後者を関西型 (コゲンゴロウモドキ D. sharpi validus) として亜種と認める見解もあるが、 これら2個体群の分類学的位置づけは現在も不明瞭である。

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形態

成虫の形質

オスは長卵型、メスは卵型である。上翅は緑色を帯びた黒色。雌雄の違いに関しては、前肢の吸盤の有無で判別できる。吸盤があるのがオス、無いのがメスである。また、ゲンゴロウモドキ属の共通の特徴として、オスの吸盤は中肢にも確認できる。しかし、前肢の吸盤のように顕著に発達していないので、雌雄判別の指標とするのは難しい。同様に、ゲンゴロウモドキ属に共通する特徴として、前頭部に赤褐色のV字の紋様が確認できる。前胸背板の側縁が黄色に縁取られること、腹部が暗褐色であることにより他のゲンゴロウモドキ属から識別される。

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蛹の形質

蛹室の形態は球形に近い楕円形で、最大幅 29〜35 mm。地表から約 32〜45 mm 付近に形成される。

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幼体の形質

孵化直後は白いが、半日ほどすると茶褐色になる。ゲンゴロウ属の幼虫と似ているが、ゲンゴロウ属の幼虫が尾端の突起が1本であるのに対し、シャープゲンゴロウモドキは2本である。

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卵の形質

卵は棒状で、薄黄色をしている。

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地理的変異

「亜種」の項参照。

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似ている種 (間違えやすい種)

エゾゲンゴロウモドキ、ゲンゴロウモドキ

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生態

成虫の生息環境

水草やリターが豊富で、透明度の高く岸辺が土になっている水深 10 cm 〜 1 m 程度の止水域に生息する。農薬や侵略的外来種 (特にアメリカザリガニ) の侵入には極めて弱く、そのような場所ではすぐに姿を消してしまう。

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成虫の食性

弱ったり死んだりした水生生物を強力な顎でかじって捕食する。

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幼虫の食性

1〜2齢幼虫は主に甲殻類のミズムシを捕食する。3齢になって体が大きくなるとさらにフタバカゲロウの幼虫やアカガエルの幼生等も捕食するようになる。非常に獰猛であり、動くものにはなんでも反応を示すため、幼虫同士を同じ飼育容器に入れるとたちまち共食いを始める。体外消化であり、捕食する際は大顎で噛み付いて先端から消化液を注入し、溶けた部分を吸汁する。

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成虫の天敵

鳥類、魚類、哺乳類 (イノシシ等)

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幼虫の天敵

イモリ、他の水生昆虫、スジブトハシリグモ、アメリカザリガニ

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ライフサイクル

3〜4月にセリやガマなどの水生植物の茎に産卵し、卵は 2〜3週間ほどで孵化する。1齢幼虫, 2齢幼虫はそれぞれ1週間程度で脱皮する。3齢幼虫は2週間ほどすると餌をとらなくなり、その1〜3日後に上陸して、岸辺の土中の地表から 1〜2 cm の深さに蛹室をつくり蛹となる。蛹室に入ってから5〜7日で蛹化し、約3週間後の5〜7月に新成虫となる。羽化後2〜3日は、からだが固まるまで蛹室内でじっとしており、夕方〜夜に水中へと移動する。その後、夏には活動が一時不活性化し、水底の泥中にもぐったりするが、秋に再び活発に活動する。その後、水中で成虫越冬し、翌春に繁殖する。成虫の寿命は、飼育下では3年以上の記録もあるが、野外では3年が最長とされる。また夏季の温度が高い場所では1年ほどとされる。

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活動時間帯

基本的に夜行性である。

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孵化・脱皮・羽化

幼虫は岸辺の土中で蛹化する。蛹化後約3週間を経て 5〜7月に羽化し、新成虫となる。羽化後2〜3日は、からだが固まるまで蛹室内でじっとしており、夕方〜夜に水中へと移動する。

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生殖行動

交尾は、秋季から始まり3月程度まで続く。オスは前肢および中肢の吸盤を使ってメスの前胸背や上翅に吸着し、その状態で交尾を行う。約2〜4時間吸着しているが、実際の交尾時間は3〜4分と考えられている。メスの尾端にはオスの分泌物により白色の交尾栓が形成される。交尾栓はメスが自ら後肢で外して数回の交尾が可能となる。

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産卵

メスは 3〜4月にセリやガマなどの柔らかい水生植物の茎に産卵管で切れ目を入れて茎の内部に差し込み、1卵ずつ産卵し、複数回で合計100個程度の卵を産む。

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特徴的な行動

普段は水草の根元付近に潜り込んでいることが多く、泳ぎはゲンゴロウに比べるとあまり上手とは言えないが、オタマジャクシや小魚などを捕食するのはゲンゴロウよりも上手い。
成虫は飛翔して移動でき、夜間灯火に飛来した例も報告されている。一部の個体は夏〜秋に数百メートルから 3〜4 km 程度の距離を移動分散することが明らかになった。
呼吸のために水上に浮上してくることがあり、飼育下ではしばしば水草や水面から出た流木に捕まって甲羅干しを行う姿が見られる。
幼虫も成虫同様呼吸の際に水面に浮上する。水草などに捕まり、尻にある尾突起で空気を取り入れている。脱皮する半日〜1日ほど前になると、食欲がなくなり、水草に捕まってじっとしていることが多くなる。脱皮直前には適当な足場を探して体を固定させる。

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その他生態

高水温に対する耐性が低く、水温30℃以上になるような場合死亡する。
幼虫が蛹化する際の移動能力は極めて低く、コンクリート等で護岸されたところを移動することはできない。

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種・分類一覧