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トノサマバッタ(Locusta migratoria)の分類 バッタ科(Acrididae)
トノサマバッタ(Locusta migratoria)の概要 Locusta

トノサマバッタ(Locusta migratoria)

【 学名 】
Locusta migratoria (Linnaeus, 1758)

基本情報

大きさ・重さ

成虫全長:雄 35~40 ㎜、雌 45~65 ㎜(頭頂から翅端まで)

参考文献

  • 三時輝久 2006 トノサマバッタ, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 541-542.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

活動時期

成虫出現時期(日本国内):西日本では年2化で7~11月。北海道では年1化。南西諸島では周年発生の可能性があるが、少ないためはっきりと分からない。

参考文献

  • 三時輝久 2006 トノサマバッタ, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 541-542.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

分布

日本全土;アフリカ、オーストラリア、旧北区

参考文献

  • 三時輝久 2006 トノサマバッタ, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 541-542.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

亜種

亜種名と主な分布域

ssp. migratoria:中央アジア
ssp. manilensis:中国
ssp. cinerescens:地中海沿岸
ssp. burmana:チベット南部
ssp. migratorioides:アフリカ(サハラ以南)
ssp. capito:マダガスカル
ssp. manilensis:オーストラリア北部・東部、ニュージーランド北島・南島北部

参考文献

  • Alexandre V. Latchininsky@Ramesh Sivanpillai 2010 Locust Habitat Monitoring and Risk Assessment Using Remote Sensing and GIS Technologies, Aurelio Ciancio、K.G. Mukerji(編) Integrated Management of Arthropod Pests and Insect Borne Diseases. Springer Netherlands. pp. 163-188.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

別名・流通名・方言名

ダイミョウバッタ

参考文献

  • 三時輝久 2006 トノサマバッタ, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 541-542.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

分類学的位置付け

日本産は亜種 manilensis (Meyen, 1835) といわれているが、ほかの亜種もいるかもしれない。

対馬や小笠原諸島のはそれぞれ少し違う。小笠原諸島のものはHebard (1924) によると亜種 australis (Saussure, 1884) に近い。対馬産の一部は亜種 migratoria かもしれないが、日本のものの分類学的研究がないので本図鑑では亜種の扱いをしなかった。

染色体数は2n♂=23(Itoh, 1934, 他)。

参考文献

  • 三時輝久 2006 トノサマバッタ, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 541-542.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

人間との関係

大群となって飛来して農作物に壊滅的な被害をもたらす、著名な大陸の“飛蝗”は本種の郡生相(phase gregaria)である。

とくに中国、中央アジア、西アフリカで非常に恐れられる。中国ではこの1000年間に200回以上の大発生が知られ、西アフリカでは1920年代後半に始まった大発生が終息せずに10年以上続いた記録がある。
被害の大きなものは世界で20種類くらいが知られるが、本種はサバクバッタと1、2を争う飛蝗の最重要種である。

一方、トノサマバッタの分布する各国では食用にもされている。
マダガスカルもそのひとつで、人々は多くの種のバッタを食べていたが、最も普遍的に食べていたのはトノサマバッタの一亜種 ssp. capito である。
捕ったバッタは焼いて食べるほか、沸騰しているお湯につけて殺して天日で干し、翅と脚を取って食べた。

参考文献

  • 石原保 2008 トノサマバッタ, 平嶋義宏、森本桂(監修) 新訂 原色昆虫大圖鑑Ⅲ. 北隆館. 91.
  • 2008 世界昆虫食大全 - 書籍全体, 三橋淳(著) 世界昆虫食大全. 八坂書房. .
  • 田中寛 1996 トノサマバッタの大発生, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科8:昆虫Ⅰ. 平凡社. p. 140.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

形態

成虫の形質

体色は褐色~緑色の間で、かなり変化に富む。前翅は褐色で複雑な黒斑が散在する。後翅は基部がやや黄色でほかは透明。

後脛節は橙赤色である。前胸背板の稜はあまり高くならず、中央で横溝により切断される。

参考文献

  • 三時輝久 2006 トノサマバッタ, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 541-542.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

生態

成虫の生息環境

餌場としてのイネ科の草地と産卵場としての裸地の両方が必要である。

したがって、日本での好適生息地は川原、草のまばらな草原、開発中の住宅分譲地、運動場、サトウキビやトウモロコシの畑などで、造成地のような人工環境にもよく入り込む。

これらの生息地はいずれも規模が小さく、大きな環境変化をこうむりやすい。

参考文献

  • 田中寛 1996 トノサマバッタの大発生, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科8:昆虫Ⅰ. 平凡社. p. 140.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

成虫の食性

イネ科やカヤツリグサ科

参考文献

  • 三時輝久 2006 トノサマバッタ, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 541-542.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

発音(鳴き声)

後脚の腿節(もも)を動かすことによって、その内側にある1列の発音小歯で、前翅のR脈(翅脈)を摩擦して、ジャッ・ジャッと音を立てる。

トノサマバッタがたくさんすんでいる草原では、オスの「もも鳴き」と呼ばれる、「トゥルルルルル」と聞き取れる軽快な鳴き声もしばしば聞かれる。

トノサマバッタのオスはさらに、飛んでいるときに「パタパタパタ」と軽快な音を出す「飛び鳴き」もする。

さらには、メスが発音することも知られている。

参考文献

  • 宮武頼夫・市川顕彦・初宿成彦 2008 鳴く虫の基礎知識, 大阪市立自然史博物館、大阪自然史センター(編) 鳴く虫セレクション. 東海大学出版会. 168.
  • 内田正吉 2008 草原で鳴くバッタたち, 大阪市立自然史博物館、大阪自然史センター(編) 鳴く虫セレクション. 東海大学出版会. 12-13.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

ライフサイクル

トノサマバッタは本州南部、四国、九州などの南日本では年2化である。土中で越冬した休眠卵は5月に孵化し、6~7月に成虫になる。この成虫はすぐに非休眠卵を産み、7~8月に孵化した第2世代幼虫は9~10月に成虫になって休眠卵を産む。
一方、本州北部や北海道では年1化で、7~8月に羽化した成虫がしばらく産卵抑制したのち、8~9月に休眠卵を産む。南西諸島では成虫越冬と卵越冬が同時にみられ、おおむね年3化の複雑なライフサイクルをもつ。
そして、これらのライフサイクルは卵休眠の性質に依存し、各個体群で遺伝的に決まっている。

西アフリカのトノサマバッタのライフサイクルは大きく異なる。常発地はニジェール川中流域にあり、孤独相の個体であっても毎年、雨季にのみできる草原と乾季に氾濫原の退水地にできる草原という、数十~数百㎞離れた二つの生息地を、季節風にうまく乗って順々に移動しながら利用する。卵休眠はない。
雨季の降水量が多く、雨季の草原で個体数が増えた場合は、乾季の氾濫原における生息地で密度が高まり、郡生相が出現する。郡生相も孤独相と同じように季節移動するが、移動能力が大きいため、雨季にできる草原をより広く利用できるという利点がある。
なお、この移動時に天敵の昆虫や微生物を置き去りにし、生存率を高めているという説もある。

参考文献

  • 田中寛 1996 トノサマバッタの大発生, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科8:昆虫Ⅰ. 平凡社. 104.
  • 田中寛 1996 なぜ日本で大発生しにくいのか, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科8:昆虫Ⅰ. 平凡社. p. 104.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

生殖行動

秋期には、雄は視覚で雌を探してマウントする。

参考文献

  • 加納康嗣 2006 採集法, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 551.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

その他生態

大陸の“飛蝗”は本種の郡生相(phase gregaria)で、孤独相(phase solitaria)のものに比べて前胸背板は中縦隆起線の盛り上がりがなく、また著しく狭まり、両翅は相対的に長く、後腿節は相対的に短い。
これらの相は集団の密度に依存し、体が互いに接触するほどの密度になると郡生相化する。

日本のトノサマバッタはふつう孤独相しか見られず、体色は緑色、褐色、灰色などさまざまであるが、同種同士が出会っても群れはつくらない。しかし、多発時には日本でも郡生相が出現し、黒色と橙色のツートンカラーの幼虫が集団で行進し、相対的に長い翅をもつスマートで黒っぽい成虫が群飛する。
過去には1970年代の沖縄大東諸島のサトウキビ畑や、1980年代の鹿児島県馬毛島の山火事跡地で孤独相から郡生相への転換(相変異)が確認されている。

参考文献

  • 石原保 2008 トノサマバッタ, 平嶋義宏、森本桂(監修) 新訂 原色昆虫大圖鑑Ⅲ. 北隆館. 91.
  • 田中寛 1996 生息密度によって変化する, 日高敏隆(監修) 石井実、大谷剛、常喜豊(編) 日本動物大百科8:昆虫Ⅰ. 平凡社. p. 140.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

関連情報

採集方法

佐藤有恒氏が発見したトノサマバッタの行動から考案された、バッタ釣りという採集法がある。地表性のバッタ類が成熟する秋期には、雄は視覚で雌を探してマウントするので、河川や草原でテグスにつけたダミーを遠くへ投げてから、少しずつ引っ張ると、雄は簡単に釣りあげられる。
多摩川のトノサマバッタでは縦 12 ㎜、横 15 ㎜、長さ 70 ㎜の角材製の黒色ダミーが最も効果があったそうである。

参考文献

  • 加納康嗣 2006 採集法, 日本直翅類学会(編) バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑. 北海道大学出版会. 551.

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

味や食感

素揚げのほか、衣をつけて天ぷらにして食べると美味。トノサマバッタは大きいので、ほかの小型バッタと比べて食べ応えがある。

参考文献

  • 2012 昆虫食入門 - 書籍全体, 内山昭一(著) 昆虫食入門. 平凡社. .

最終更新日:2020-06-10 ひろりこん

種・分類一覧